No.3 手作りクッキーの対価

ある休日の朝、リビングに爽やかな風が通り抜ける中、高校生になった娘が「パパ、コレあげる」と近づいてきた。

驚いた。どこで覚えたのかバッチリ施されたメイクに、カラーコンタクト。よそ行きの服に身を包んだ彼女は、悔しいがいつもよりずっと美人に見えた。

「いったい、どうしたんだい」

久しぶりに向こうから話しかけてくれた嬉しさと動揺が混ざり合う。しかし、手渡された「手作りクッキー」の重みを感じた瞬間、私の本能がアラートを鳴らした。過去の経験上、これには必ず“裏”がある。

「お小遣いちょうだい。友達と海に行くから♪」

娘は子供のように甘えた声で行き先を告げた。あごに人差し指をあて、口をとがらせ、極めつけにウインク。普段のけだるい態度からは想像もつかない、完璧に計算された「可愛いワタシ」を演出している。

「……で、いくら欲しいんだい?」

毎月決まったお小遣いでやりくりしている身としては、ここでの出費は痛手だ。心の中で激しい家族会議(葛藤)を開きつつも、父親のプライドを保つため、引きつりそうな笑顔で快諾する。

「2,000円♪」

心の中で思いきり仰向けにズッコけた。クッキー1枚に対する対価としては、あまりにも高額な請求である。財布を開き、野口英世を2枚つまみ出す私の指先は、心なしか微かに震えていた。

嗚呼。全く口をきいてくれない思春期に比べれば、こうして必要とされている(貢がされている)だけマシなのだろうか。
全国のお小遣い制お父さん、私たちの戦いはこれからも続きます。


No.4 譲り葉の朝
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2026年07月20日