No.12 家族旅行記 大阪・熱帯の人工芝と難民たち


奈良の混雑を抜け出し、いよいよ旅の最終舞台・大阪へと足を踏み入れた。

……しかし、ここでも「予定は未定」という旅の洗礼を受けることになる。

元々、人混みが大の苦手な私。
そのため相棒のジェミニ先生には、「大阪市内での大移動は避け、帰りの新幹線を待つ間に新大阪駅の駅ビルでゆったりお土産(我が家の本命・551の肉まん!)を吟味する」という、落ち着いた快適プランを提案してもらっていたのだ。

ところが――

「買い物は、大阪(梅田)でします!」

我が家の絶対権力者・女子チームの鶴の一声により、ジェミニ先生の平和なプランは露と消えた。



案内されたのは、毎日がお祭りのような奈良の商店街の比ではない、まさにパニック状態の超絶大混雑ゾーン。
圧倒的な人波の中に、私と息子はポイと投げ出された。


「ママが良いー」
あどけなさの残る息子が、女子チームの買い物についていこうとする。

「……男子が女子の買い物に行っても、退屈なだけだぞ?」
私は本当の理由――「女子チームから荷物と息子のダブルお守りを押し付けられた」という過酷な現実を隠し、オブラートに包んで息子を引き留めた。

「まあ、なんとかなるさ」

男二人、楽観的に笑い合ってみたものの、その考えはすぐに「絶望」へと変わることになる。



この猛暑の中、とりあえず冷房の効いた喫茶店で涼しく時間を潰そうと考えた。
……どこも満員。行列。

では、クーラーの効いたフリースペースはどうか?
……どこも満員。立っている隙間すらない。

駅ビルの中をグルグルと彷徨うが、座れる場所はおろか、息をつく場所すら見つからない。
「どこにも休憩するところがないじゃん!」
ついに息子の不満が爆発する。

「新大阪でゆったり過ごそう」というジェミニ先生の提案を突っぱねた自分(というか女子チーム)の選択を、私は心の底から後悔した。



彷徨い続けた挙句、辿り着いたのは駅ビル5階から駅へと続く連絡通路だった。

そこには人工芝が敷かれており、一見すると憩いの広場のように見える。
……しかし、この日の猛暑である。まるで熱帯のジャングルに放り出されたかのように、息苦しい熱気が充満していた。

涼と休息を求めて辿り着いたその場所で、大量の人々が地べたに力尽きたように座り込んでいるのを見た瞬間、私は自分の過去の発言を猛省した。

「駅ビルに涼しい喫茶店なんていくらでもあるのに、なんであんなところで地べたに座ってるんだろ?」
駅から駅ビルへ向かう途中、そんな風に見下していた自分を、いま拳で殴り倒したい。

ここにあるのは優雅な休憩などではない。「生存をかけた避難」なのだ。



行き場を失った私と息子もまた、熱帯の気候を完璧に再現したその人工芝の上にへたり込んだ。

無言のまま、ただただ汗と時間がダラダラと流れていく。
まわりの人々をそっと見渡す。みんな仲間だ。言葉は交わさずとも、「暑い」「動きたくない」という心の声が響き合っているのを感じた。


その時、私のスマホが鳴った。


「買い物疲れたー。もう帰りたい」


我が家のヒエラルキーの頂点に立つ、娘からのコールである。

その一言で、膠着していた戦局が一気に動き出した。

呆然と汗だくになり、地べたにへたり込んでいた息子の瞳に、再び希望の光が宿る。

(……同胞(ひなんみん)たちよ、お先に失礼する)

私は心の中で人工芝の仲間たちに静かな別れの挨拶を告げた。

汗を拭い、立ち上がる。
さあ、いよいよ我が家の旅は、最後の怒涛のフィナーレ――「551の肉まんが待つ新大阪」へと向かうのだった。


No.13 家族旅行記 幻の肉まんと、手に入れたもの
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2026年07月20日