No.11 家族旅行記 奈良まちの迷走と息子の優しさ


カラコン騒動をなんとか乗り越え、いよいよ二日目のメインイベント・買い出し&散策ツアーへ出発だ。

初日に「侘び寂び」の世界観を存分に(?)味わったので、二日目は女子チームの要望に応えてお買い物中心のスケジュールとなっている。

もちろん、今回の旅の計画担当は私だ。
頼れる相棒・ジェミニ先生が提案してくれた「奈良・大阪お買い物ツアー」は、バスや電車の時刻表から徒歩ルートまで完璧に網羅された、タイムスケジュール付きの安心プランである。

奈良駅の5番乗り場から、風情ある町並みが広がる「ならまち」を目指す。
古都の情緒を味わいつつのウィンドショッピング。完璧な計画のはずだった。


……しかし、ジェミニ先生の完璧なプランは、開始早々に頓挫する。


女子チームは、ジェミニ先生が厳選してくれた「ならまち」のおすすめスポットや人気のおしゃれ店に、驚くほど興味を示さなかったのだ。

華麗にスルーされていく世界遺産の寺院や名所たち。
立ち尽くす私。



するとここで、奇跡が起きた。
普段は反抗期で何かと険悪なはずの息子が、うなだれる私を不憫に思ったのか、ジェミニ先生のプランにわざとらしく同調してくれたのだ。

「あ、ここも良さそうだよね!」

息子の優しさに思わず目頭が熱くなり、私はそっと目をこすった。
……が、慣れない度の薄いメガネの上からゴシゴシとこすってしまい、誤魔化すために思わず下手くそな口笛を吹いた。
男の不器用な情けなさが、奈良の街に虚しく響く。



女子チームに誘導されるまま辿り着いたのは、「ならまち」に隣接する商店街だった。

昨夜彷徨った駅前の広くて洗練された商店街とは違い、どこか地方の昭和を感じさせる狭くて古い商店街。
……だが、人出が凄まじい。

「今日、何かお祭りでもあってるのか?」
思わずジェミニ先生に問いかけたくなったが、どうやらこれが通常運転らしい。

初日の「外国人と鹿とフンでごった返す奈良公園」に続き、二日目は「大混雑の古風な商店街」。
「侘び寂び」を求めてやってきた奈良のイメージが、音を立てて崩れ去っていく。



やがてお昼時となり、昼食の場所を決めることになった。
決断を下したのは、息子の一声だった。

私の提案が通った試しなど一度もないので、我が家のヒエラルキー(序列)を再確認しつつも、私は心の中で息子に深く感謝した。

群衆をかき分けた先で見つけたのは、どこか懐かしい雰囲気の漂う、食堂のような喫茶店。
メニューとそこに書かれた価格帯を見て、私は再び息子の配慮に目頭が熱くなった。
……またしても、お父さんのお財布に気を遣わせてしまったらしい。



運ばれてきた料理も、それぞれの性格がそのまま表れていた。

妻は、一番リーズナブルな「コロッケ定食」。
娘は、「ご飯の気分じゃない」と頼んだ豪華な「高級パフェ」。
息子は、気を遣って選んでくれた「安いハンバーグ定食」。
そして私は、ちょっとだけ背伸びをした「ピラフハンバーグ定食」。


一口食べると――正直、ものすごく美味しかった。


昨夜、商店街を彷徨ったあげくに辿り着いた居酒屋で、飲めない酒を飲むフリをしながら食べた高額な料理よりも、ずっとずっと喉の通りが良かった。

ふと、向かいに座る息子と目が合う。
息子は何も言わず、黙々とハンバーグを口に運んでいた。



今回の旅行では、当初目指していた「侘び寂び」はついに得られなかった。

けれど、不器用ながらも自分を気遣ってくれる息子との絆という、もっとずっと大切で温かいものを手に入れた気がした。


お腹を満たし、家族みんながウィンドショッピングと長距離の散策を十分に満喫したところで、奈良に別れを告げる。

さあ、いよいよ旅の最終舞台・大阪へ向かう時間だ。


No.12 家族旅行記 大阪・熱帯の人工芝と難民たち
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2026年07月20日